「添育(そういく)」を支える25の理論を巡る旅。
【学習メカニズム編】の第3回目(通算Vol.18)は、「経験学習モデル(Experiential Learning Model)」です。
よく「経験は人を成長させる」と言いますよね。
「可愛い子には旅をさせよ」とも言います。
しかし、少し意地悪な質問をさせてください。
「経験すれば、誰でも必ず成長するのでしょうか?」
答えはNoです。
もし「経験=成長」なら、長く生きている人は全員、人格者で賢者になっているはずです。
しかし現実はそうではありません。
同じ失敗を何度も繰り返してしまう人もいれば、たった一度の失敗から劇的に成長する人もいます。
この差は一体何なのでしょうか?
それは、経験を「体験(やりっぱなし)」で終わらせているか、それとも「学習(教訓化)」まで昇華させているかの違いです。
今日は、あらゆる「経験」を「成長」に変えるための4つのステップを学びましょう。
経験学習の「4つのステップ」
アメリカの組織行動学者デイビッド・コルブは、人が経験から学ぶプロセスを、以下の4段階のサイクルとして定義しました。
1.具体的経験(Concrete Experience):
何かをやる。
2.省察的観察(Reflective Observation):
振り返る。
3.抽象的概念化(Abstract Conceptualization):
法則を見つける。
4.能動的実験(Active Experimentation):
試す。
このサイクル(コルブ・サイクル)を回すことではじめて、脳は経験を「知恵」としてインストールします。
一つずつ見ていきましょう。
① 具体的経験(Do):まずは「やってみる」
全ての始まりはアクションです。
- 「新しい料理を作ってみた」
- 「テスト勉強をせずに受けた」
- 「友達と喧嘩した」
ZPD(最近接領域)にある課題に飛び込むこと。
ここでのポイントは、「成功も失敗も、等しく価値あるデータ」だと捉えることです(グロースマインドセット)。
② 省察的観察(Look):立ち止まって「振り返る」
ここが最初の分かれ道です。
多くの人は、やりっぱなしで終わるか、「あーあ、失敗した」と感情だけで終わらせてしまいます。
そうではなく、事実を客観的に見つめ直します。
- 「焦げて美味しくなかったな(事実)」
- 「点数が30点だった。悔しいな(感情)」
- 「言いすぎて相手を泣かせてしまったな(状況)」
③ 抽象的概念化(Think):自分なりの「法則」を作る
ここが最重要ステップです。
振り返った内容から、「なぜそうなったのか?」「次はどうすればいいか?」という、
「教訓(ルール)」を引き出します。
- ×「運が悪かった」
- 〇「強火のまま放置したのが原因だ。煮込み料理は弱火にするのが鉄則なんだな」
- 〇「前日に詰め込んでも覚えられない。記憶の定着には睡眠が必要なんだな」
- 〇「相手の話を遮ると怒らせる。まずは最後まで聞くことが大事なんだな」
個別の体験から、他の場面でも使える「一般法則(セオリー)」を抽出する。
これが「概念化」です。
これこそが「地頭の良さ」の正体です。
④ 能動的実験(Try):新しい方法で「試す」
作った法則(仮説)が正しいかどうか、次の機会に試してみます。
- 「よし、今夜は弱火でコトコト煮込んでみよう」
- 「次のテストは、3日前から少しずつやってみよう」
- 「今日は口を挟まずに、うんうんと聞いてみよう」
そして、その結果また新しい「具体的経験(①)」が生まれ、サイクルが回り始めます。
親の役割は「サイクルを回す」手伝い
子どもは、放っておくと①(経験)だけで止まってしまうことがよくあります。
「楽しかった!」
「つまんなかった!」
「怒られた!」
これだけでは、学びになりません。
そこで親や教育者の出番です。
私たちは、問いかけによって強制的にサイクルを回す「水車小屋の管理人」になるのです。
ステップ②(振り返り)への誘導
- 「やってみてどうだった?」
- 「何がうまくいって、何がうまくいかなかった?」
- 「その時、どんな気持ちだった?」
ステップ③(概念化)への誘導 ※ここが腕の見せ所!
- 「どうしてそうなったと思う?」
- 「ここから学べることは何だろう?」
- 「もしタイムマシンで戻れるなら、次はどこを変える?」
- 「この失敗にタイトルをつけるとしたら?」
ステップ④(実験)への誘導
- 「じゃあ、次はどうしてみる?」
- 「その作戦、いつ試してみようか?」
この対話こそが、Vol.12で学んだ「コーチング」の実践編です。
「答え」を教えるのではなく、「問い」によって子ども自身に教訓を見つけさせるのです。
失敗の直後こそが「ゴールデンタイム」
子どもがテストで悪い点を取ったり、試合で負けたりした時。
親としては「勉強しなさいって言ったでしょ!」と説教(ティーチング)したくなりますよね。
しかし、経験学習モデルで見れば、失敗直後は「最高の具体的経験(①)」を手に入れた直後です。
つまり、学びのサイクルを回す絶好のチャンス(ゴールデンタイム)なのです。
ここで説教をしてしまうと、子どもは「怒られないようにする」ことが目的になり、思考停止します。
そうではなく、横に座って一緒に振り返る。
「悔しいね(共感)。じゃあ、この『悔しい経験』を無駄にしないために、作戦会議をしようか(③概念化)」
そうやって手に入れた教訓は、100回の小言よりも深く心に刻まれます。
「転んでもただでは起きない子」とは、このサイクルを自分で回せる子のことです。
サイクルは「螺旋(らせん)」を描く
このサイクルを回し続けると、どうなるでしょうか?
同じところをグルグル回るわけではありません。
一度目の失敗から学び、次は少しうまくいく。
そこからまた学び、さらにうまくいき、もっと難しい課題(ZPD)に挑戦できるようになる。
そう、サイクルは「上向きの螺旋(スパイラル)」を描いて上昇していくのです。
昨日より今日、今日より明日。
少しずつ、でも確実に、子どもは高い場所へと登っていきます。
まとめ:人生は実験の連続だ
エジソンは言いました。
「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの『うまくいかない方法』を見つけただけだ」
これはまさに、経験学習サイクルの達人の言葉です。
①実験して、②うまくいかないことを確認し、③「この素材はダメだ」と概念化し、④別の素材で試す。
このサイクルを高速で回し続けたからこそ、彼は偉大な発明ができたのです。
「失敗」なんて存在しません。あるのは「フィードバック」だけです。
お子さんが何かに挑戦して戻ってきたら、
「成功した?」と聞く代わりに、こう聞いてあげてください。
「おかえり! 今回は何を『発見』してきた?」
その一言が、子どもの人生を「学びの実験室」に変えてくれるはずです。
さて、サイクルが回り始めると、人は時間を忘れてその活動に没頭するようになります。
その時、脳内では驚くべきパフォーマンスが発揮されています。
次回、Vol.19は「フロー理論(Flow)」。
スポーツ選手が「ゾーンに入る」と表現する、あの超集中状態。
勉強もスポーツも、楽しみながら最高の結果を出すための「没頭のメカニズム」について解説します。
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