「添育(そういく)」を支える25の理論を巡る旅。
今回から、いよいよ実践的なスキルを学ぶ【技法編】に入ります。
みなさんは、「人の話を聞く」ことに自信がありますか?
「うんうん、聞いているよ」と言いながら、頭の中でこんなことを考えていませんか?
- (次は自分が何を言おうかな…)
- (それは間違っているな、後で訂正してやろう)
- (あー、今日の夕飯何にしよう…)
これは「聞いている」のではなく、
「自分の順番を待っている」か「心の中でジャッジしている」状態です。
これでは、相手は「聞いてもらえた」とは感じません。
今回ご紹介する「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」は、
カウンセリングの世界で発展した、プロの「聞く技術」です。
土台は「エポケー(判断停止)」
技法に入る前に、絶対に外せない前提があります。
それは、前回(Vol.10)学んだ「エポケー(判断停止)」です。

もしあなたが、心の中で「こいつはダメな部下だ」と決めつけたまま(色眼鏡をかけたまま)、
口先だけで「うんうん、大変だったね」と言ったらどうなるでしょうか?
相手は敏感にそれを察知します。
「あ、この人、心の中ではバカにしてるな」と。
これでは、どんな高度なテクニックも「操作」や「演技」に堕ちてしまい、
信頼関係は崩壊します。
積極的傾聴とは、まず自分の判断をカッコに入れ、
心を「空っぽの器」にすることから始まります。
あなたの意見、アドバイス、批判は一切必要ありません。
ただ、相手を受け入れるスペースを作るのです。
「鏡」になる技術(伝え返し)
では、具体的にどうすればいいのでしょうか?
積極的傾聴の核心は、「鏡(ミラー)になること」です。
鏡は、前に立ったものを、良い悪いと判断せず、そのまま映し出しますよね。
それと同じように、相手が言ったこと、感じていることを、
そのまま言葉にして返してあげるのです。
これを「伝え返し(リフレクション)」と言います。
① 事実の伝え返し(オウム返し)
相手が使ったキーワードを、そのまま繰り返します。
- 子:「今日、学校ですごく嫌なことがあって、もう行きたくないんだ」
- 親(×):「何があったの? サボっちゃダメでしょ」(質問・批判)
- 親(〇):「そっか、学校で嫌なことがあって、行きたくないんだね」(そのまま返す)
単純なオウム返しですが、言われた方は、
「あ、私の言葉がそのまま届いた(受け止められた)」という強い安心感を覚えます。
② 感情の伝え返し
さらに一歩進んで、言葉の裏にある「感情」をくみ取って返します。
- 部下:「このプロジェクト、もう無理かもしれません…。誰も協力してくれないし…」
- 上司(×):「弱音を吐くな。協力してもらう努力はしたのか?」(叱咤・アドバイス)
- 上司(〇):「そうか。孤立無援な感じで、すごく辛くて、不安なんだね」(感情を言語化して返す)
相手がまだ言葉にできていないモヤモヤした感情に、
「それは『辛い』ってことだよね?」と、名前を付けて返してあげる。
これがピタッとはまると、相手は「そう! まさにそれが言いたかったの!」と、
深く理解された喜びを感じます。
なぜ、聞くだけで人は変わるのか?
「ただ繰り返すだけで、何の意味があるの? アドバイスしなきゃ解決しないでしょ?」
そう思うかもしれません。
しかし、人は自分の話を真剣に聞いてもらい、それを「鏡」のように返してもらうことで、
劇的な変化を起こします。
これを「オートクライン効果」と呼びます。
人は、自分が発した言葉を自分の耳で聞くことで、
「あ、私ってこんなことを考えていたんだ」「こんなに傷ついていたんだ」と、
初めて自分自身を客観視できるようになるのです。
聞き手は、相手が自分自身を整理するための「外部モニター」の役割を果たします。
アドバイスされなくても、十分に聞いてもらえれば、
人は自力で解決策を見つけ出す力(自己調整力・実現傾向)を持っています。
まとめ:同意しなくていい、受容しよう
積極的傾聴で最も大切なのは、「同意(Agree)」と「受容(Accept)」を混同しないことです。
「学校に行きたくない」という子どもに、
「そうだね、行かなくていいね」と同意する必要はありません。
ただ、「あなたは今、行きたくないと感じているんだね」と、
その事実をありのままに受け止める(受容する)だけでいいのです。
「どんなあなたでも、ここにいていいよ」
そのメッセージが伝わった時、相手の心に安全基地ができ、
次のステップへ進む勇気が湧いてきます。
次回は、技法編第2弾。
十分に話を聞いて信頼関係ができたら、次はいよいよ相手の「考える力」を引き出します。
指示命令ではなく、問いかけによって人を動かす技術、「コーチング」について解説します。


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