前回は、教育のOSを『学び合い』に変え、子どもたち集団の力を信じて任せることの重要性をお話ししました。

「よし、環境は整えた。みんなに任せたぞ!」
意気揚々とスタートしたものの、現場ではすぐに次なる「壁」にぶつかります。
- 任せたのに、全然動き出さない子がいる。
- すぐに「先生、わかんなーい」と答えを聞きに来る。
- 明らかに間違ったやり方で進めているのに、気づいていない。
そんな姿を見ると、私たちの中の「教えたい虫」がうずき出します。
「ほら、そこ違うよ!」
「まずは計画を立てなさい!」
…ちょっと待ってください。
その「良かれと思ったアドバイス」が、実は子どもの中に育ちつつある
「自律のエンジン」を止めてしまっているとしたら?
今回は、添育を支える理論の第2弾。
子どもが自分から動き出すメカニズム、「自己調整学習(Self-Regulated Learning:SRL)」について解説します。
「頭の良さ」ではなく「学び方のうまさ」
「あの子は自律しているね」と言うとき、私たちは具体的にどんな姿を指しているのでしょうか?
教育心理学の世界では、それを「自己調整学習(SRL)」という理論で説明します。
一言で言えば、「学習者自身が、学びのプロセスのハンドルを握っている状態」です。
誰かに強制されたからやるのではなく、自分で目標を立て、自分に合ったやり方を選び、
うまくいかなければ修正する。
この一連のサイクルを、自分自身でコントロール(調整)できる力のことを指します。
SRLの研究が教えてくれる衝撃的な事実は、「成績が良い子は、必ずしも元々のIQ(知能指数)が高いわけではない」ということです。
彼らは、「学び方のサイクルを回すのが上手い(調整力が高い)」のです。
自律の「3ステップ・サイクル」
では、自律した学習者は脳内でどんなサイクルを回しているのでしょうか?
ジマーマンという研究者は、これを以下の3つの段階で説明しています。
1.見通す(予見段階):
「この課題なら15分でできそう」「まずは教科書を読もう」と計画を立て、
やる気をセットします。
2.実行する(遂行段階):
実際にやってみます。集中が切れそうになったら「あと少し!」と自分を励ましたり、
わからない時に辞書を引いたりして、行動をコントロールします。
3.振り返る(自己省察段階):
ここが最も重要です。「なぜ間違えたのか?」「このやり方は合っていたか?」を分析し、
「次はこうしよう」と修正を加えます。
このサイクルをぐるぐると回すことで、学習のエンジンは太く、強くなっていきます。
なぜ、添育は「待つ」のか?
さて、ここからが本題です。
私たち大人が、良かれと思って「先回りして教える」「間違いを即座に指摘する」と、
子どもの脳内で何が起きるでしょうか?
それは、子どもが握るはずだった「ハンドル」を、大人が横から奪い取ってしまうことを
意味します。
特に、ステップ3の「振り返り(省察)」の機会が奪われます。
自分で間違いに気づき、「あ、このやり方じゃダメなんだ。次はこうしよう」と自ら修正する瞬間こそが、自己調整学習のクライマックスであり、最も成長する瞬間です。
それなのに、大人が先回りして「そこ、違うよ。正解はこれ」と言ってしまったら?
子どもは「自分で修正する経験」を積めないまま、「困ったら大人が答えをくれる」という、
「依存の学習」を強化してしまいます。
だから、添育は「待つ」のです。
冷たいからでも、放任しているからでもありません。
彼らが自分の力でサイクルを回しきる時間を、奪わないために待つのです。
伴走者ができること:「命令」から「問いかけ」へ
では、私たちはただ指をくわえて見ているだけなのでしょうか?
違います。
私たちは「運転手」から、助手席に座る「ナビゲーター(伴走者)」になるのです。
自己調整のサイクルを回す手助けは、指示ではなく「問いかけ(コーチング)」によって
行います。
- 計画のとき(Before):
×「早くやりなさい!」
〇「さて、どこから手をつける作戦?」(計画を言語化させる)
- 実行のとき(During):
×「集中しなさい!」
〇「今、何が邪魔をしてる感じ?」(現状をメタ認知させる)
- 振り返りのとき(After):
×「なんで間違えたの!」
〇「うまくいかなかった原因、自分では何だと思う?」(成功・失敗の要因を分析させる)
彼らの思考を映し出し、自分自身を客観視(メタ認知)する手助けをする「鏡」になる。
それが、自己調整学習を促す最も効果的な支援です。
まとめ:ハンドルを本人に返そう
「言われないとやらない」のではありません。
私たちが「言い続ける」ことでハンドルを奪い続けてきた結果、
「言われないとハンドルを握ってはいけない」と学習させてしまったのかもしれません。
今日から一つだけ、変えてみませんか?
子どもが何かに取り組もうとしている時、指示を出す前に、ぐっとこらえて一つ質問を投げてみてください。
「どうやって進める予定?」
その問いかけが、彼らの内なるエンジンのスイッチを入れる第一歩になるかもしれません。
舞台(『学び合い』)とエンジン(自己調整学習)が揃ったところで、
それを見守る私たち大人は一体どんな立ち位置でいればいいのか。
次回は伴走者のリーダーシップ像、「サーバント・リーダーシップ」についてお話しします。
「指導者は偉くなくてもいい」という、勇気の出る話です。




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