【添育理論Vol.8・哲学編3】教えるな、促進せよ。人は誰でも成長できると信じ抜く「人間中心アプローチ」

添育(そういく/Soiku)

 

「添育(そういく)」を支える25の理論を巡る旅。

【哲学編】も中盤に差し掛かりました。

 

突然ですが、みなさんは子どものことを、心のどこかでこう見ていませんか?

 

「中身が空っぽの容器」

 

・空っぽだから、私たち大人が知識や道徳を注ぎ込まなければならない。

・放っておいたら、何もできないままダメになってしまう。

・だから「教える(ティーチング)」必要があるのだ、と。

 

しかし、今回ご紹介する理論、

カール・ロジャーズの「人間中心アプローチ(Person-Centered Approach)」

 

これによって、その常識は180度ひっくり返るかもしれません。

 

ロジャーズは言います。

 

「人は誰でも、自ら成長し、問題を解決する力(実現傾向)を既に持っている」

 

大人の役割は、「教え込むこと」ではありません。

 

その力が発揮されるのを邪魔せず、「促進すること(ファシリテート)」だけなのです。

 

暗闇のジャガイモが教えてくれること

 

ロジャーズの哲学を象徴する、有名なエピソードがあります。

 

ある日、彼は地下室の暗闇の中で、カゴに入ったまま忘れられていたジャガイモを見つけました。

 

光も水もない過酷な環境。

それでもジャガイモは、遠くのかすかな光を求めて、

白くてひょろひょろとした芽を、必死に伸ばしていました。

 

その姿は決して美しくはありません。

 

しかしそこには、

「どんなに環境が悪くても、生きよう、成長しようとする凄まじい力」がありました。

 

人間も同じです。

 

不登校の子も、反抗する子も、無気力に見える子も。

 

内側には必ず「より良くなりたい」「成長したい」という、

強烈なエネルギー(実現傾向)が眠っています。

 

もし、子どもが育っていないなら、それは「能力がない」のではありません。

 

そこが「暗い地下室(抑圧された環境)」だからです。

 

光と水さえあれば、教えなくても勝手に伸びていくのです。

  

「教師」から「ファシリテーター」へ

 

この人間観に立つと、私たちの役割は劇的に変わります。

 

  • これまでの教育(Teacher):
    • 私は答えを知っている。あなたは知らない。
    • 私が与え、あなたは受け取る。
    • 「指導」する存在。

 

  • 添育・人間中心アプローチ(Facilitator):
    • 答えはあなたの中にある。私はそれを引き出す手伝いをする。
    • あなたは自ら学び、私は環境を整える。
    • 「促進」する存在。

 

Vol.1の『学び合い』で、教師が直接的な教授をしなくなる理由がここにあります。

【添育理論Vol.1・核心編1】支配から信頼へ。教育のOSを書き換える『学び合い』
私が提唱する「添育(そういく)」は、指示や命令による「支配」を手放し、環境を整え、相手の自律的な成長を信じて「待つ」アプローチです。私はこれまで、教育学、心理学、脳科学、組織論などから、500近い理論を学び、それらを「人が自ら育つことに寄り...

 

子どもたちは、適切な環境さえあれば、教師が教えるよりもはるかに深く、

自分たちで学び取る力を持っていると信じているからです。

 

成長を爆発させる「3つの条件」

 

では、どうすればその内なる力を引き出せるのか?

 

ロジャーズは、ファシリテーター(親・教師)が備えるべき「3つの態度」を定義しました。

 

これが揃った時、人の心は化学反応を起こし、劇的に成長し始めます。

 

① 自己一致(Genuineness)

 

「先生」という仮面を被らないこと。

無理して立派な振る舞いをせず、一人の人間として、

ありのままの自分(感情と言動が一致している状態)で接すること。

 

大人が嘘をついていないからこそ、子どもも鎧を脱ぐことができます。

 

② 無条件の肯定的関心(Unconditional Positive Regard)

 

「テストが良いから好き」「言うことを聞くから偉い」といった条件をつけないこと。

成功しても失敗しても、「あなたという存在そのものを尊重する」という、

温かい眼差しを向け続けること。

 

これがVol.4の「心理的安全性」の正体です。

【添育理論Vol.4・核心編4】「ぬるま湯」ではない。挑戦を生む最強の土壌「心理的安全性」
前回まで、子どもたちが自律するための「仕組み(『学び合い』×自己調整学習)」と、それを支える私たちの「在り方(サーバント・リーダーシップ)」についてお話ししました。これだけの環境があれば、子どもたちは自然と育っていくはずです。しかし、もしあ...

 

③ 共感的理解(Empathic Understanding)

相手の靴を履いて、相手の目で世界を見るように理解しようとすること。

「かわいそうに(同情)」ではなく、「そうか、君は今、そう感じて苦しいんだね」と、

内面世界を共有すること。

 

Vol.7の「ケアの倫理(応答)」と通じる姿勢です。

【添育理論Vol.7・哲学編2】正義よりも「応答」せよ。論理を超えた繋がりの力「ケアの倫理」
前回は、アドラー心理学の「課題の分離」を用いて、他者の課題に土足で踏み込まない(支配しない)ためのマインドセットをお話ししました。しかし、線を引くことばかり意識すると、現場ではこんな葛藤が生まれます。「ルールはルールだからダメ」と突き放すの...

 

私たちは「無力」でいい

 

この理論が私たちに突きつける、最も厳しい、しかし希望に満ちたメッセージ。

 

それは、「私たちは他人を変えることはできない」ということです。

 

ジャガイモの芽を引っ張って伸ばすことはできません(引っ張れば千切れます)。

私たちができるのは、土を耕し、水をやり、日を当てることだけ。

 

「どうにかしてあげる」という傲慢さを捨てましょう。

「この子は、自分の力でどうにかできる」と信じて、待つのです。

 

まとめ:信じ抜くことが、最強の教育

 

「何も教えないで、本当に大丈夫?」

 

不安になる気持ちはわかります。

 

でも、思い出してください。

 

赤ちゃんは、誰に教わらなくても、何千回転んでも立ち上がり、歩けるようになります。

言葉を覚え、遊びを発明します。

 

その奇跡のような力が、目の前の子ども(部下)にも、そしてあなた自身にも、

必ず宿っています。

 

教えなくていい。変えなくていい。

 

ただ、その力が芽吹くのを邪魔せず、温かく見守る「促進者」であってください。

 

そうすれば、彼らは想像もしなかったような美しい花を、自らの力で咲かせるはずです。

 


 

次回、哲学編第4弾。

 

この「内側から勝手に育つ」という生命の不思議を、

システム論の観点から科学的に解明した難解にして深淵な理論。

 

「オートポイエーシス」について解説します。

 

なぜ「コントロール」は必ず失敗するのか? その謎が解けます。

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