【添育理論Vol.5・核心編5】「ご褒美」がやる気を殺す? 自ら動き出す心の燃料「自己決定理論」

添育(そういく/Soiku)

 

添育を支える25の理論を解説する連載、【核心編】もいよいよ今回が最終回です。

 

これまで私たちは、添育の土台となる4つの理論を学んできました。

 

  1. 舞台:『学び合い』(相互作用する環境)
  2. エンジン:自己調整学習(自律の仕組み)
  3. 庭師:サーバント・リーダーシップ(伴走者の在り方)
  4. 土壌:心理的安全性(恐怖のない場)
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【添育理論Vol.4・核心編4】「ぬるま湯」ではない。挑戦を生む最強の土壌『心理的安全性』
前回まで、子どもたちが自律するための「仕組み(『学び合い』×自己調整学習)」と、それを支える私たちの「在り方(サーバント・リーダーシップ)」についてお話ししました。これだけの環境があれば、子どもたちは自然と育っていくはずです。しかし、もしあ...

 

これだけの環境があれば、子どもたちの「自律のエンジン」は完成間近です。

 

しかし、最後の最後に、私たち大人がよくやってしまう「ある間違い」が、すべてを台無しにしてしまうことがあります。

 

それは、「間違った燃料(アメとムチ)」を注入してしまうことです。

 

「テストで100点取ったらゲーム買ってあげる(アメ)」

「宿題やらないとオヤツ抜きだよ(ムチ)」

 

これらは一見、効果があるように見えます。

子どもは動きますから。

 

でも、それはハイオクガソリンではありません。

 

エンジンを徐々に錆びつかせ、最終的には動かなくしてしまう「劇薬」かもしれないのです。

 

今回は、核心編のラストを飾る理論。

 

人が内側から燃え続けるメカニズムを解明した、「自己決定理論(SDT)」についてお話しします。

 

「ご褒美」の罠(アンダーマイニング効果)

 

心理学者のデシとライアンが提唱した「自己決定理論」は、やる気(動機づけ)研究の金字塔です。

 

この理論が教えてくれる最も衝撃的な事実は、

「もともと『好きでやっていたこと(内発的動機)』に対してご褒美(外発的動機)を与えると、

やる気が下がる」という現象です。

 

これを「アンダーマイニング効果」と呼びます。

 

例えば、絵を描くのが純粋に好きな子に、「上手に描けたらシールをあげる」と言い続けると

どうなるでしょうか?

 

その子は次第に「シールをもらうために」描くようになります。

 

そして、シールがもらえなくなった途端、あんなに好きだった絵を描かなくなってしまうのです。

 

なぜか?

 

「自分の意志で描いていた(自律)」はずが、「シールに操られて描かされている(他律)」に

変わってしまったからです。

 

添育が「支配(コントロール)」を嫌う最大の理由がここにあります。

 

良かれと思った「ご褒美」という支配は、子どもの中にある「内なる炎」を消してしまうのです。

 

心の栄養素「3つの欲求」

 

では、どうすれば「内なる炎」は燃え続けるのでしょうか?

 

自己決定理論では、人は生まれつき以下の「3つの基本的心理欲求」を持っており、

これらが満たされた時、自然とやる気が湧いてくると説明します。

 

① 自律性の欲求 (Autonomy)

 

「誰かにやらされているのではなく、自分で選んだ」と感じたい欲求。

 

これが最も重要です。

自己決定の感覚こそが、「納得感」と「責任感」の源です。

 

② 有能感の欲求 (Competence)

 

「自分には能力がある、できそうだ」と感じたい欲求。

 

いきなり高い壁に挑ませて挫折させるのではなく、「あ、できた!」という感覚が必要です。

 

③ 関係性の欲求 (Relatedness)

 

「周囲と繋がっている、大切にされている」と感じたい欲求。

 

孤独な戦いではなく、安心できる仲間や見ていてくれる伴走者がいることがエネルギーになります。

  

添育スキルで「燃料」を注ぐ

 

私たち伴走者(庭師)の役割は、アメやムチで釣ることではありません。

 

この「3つの欲求」が満たされるように環境をデザインすることです。

 

① 「自律性」を満たす ⇒ 「選択肢」を手渡す

 

「これをやりなさい」と一つだけ命令するのではなく「選ばせる」のです。

 

「漢字と計算、どっちからやる?」

「どのペンを使って書く?」

 

やることは同じでも、些細なことでも、「自分で決めた」という事実があれば、

脳はそれを「自分の行動」として認識し、自律性のタンクが満たされます。

 

② 「有能感」を満たす ⇒ 「プロセス」を認める

 

すぐに答えを教える(有能感を奪う)のでもなく、放置する(無力感を与える)のでもなく、

「ギリギリ自分の力で解けるヒント(足場かけ)」を出します。

 

そして、結果が出た時だけでなく、

「その考え方、いいね!」「あそこの工夫が良かったから解けたんだね」と、

プロセスをフィードバックします。

 

③ 「関係性」を満たす ⇒ 「I see you(見ているよ)」

 

「100点取ったから偉い」というのは条件付きの愛です。

 

そうではなく、悩んでいる時も、失敗した時も、

「あなたのことを見ているよ、味方だよ」というメッセージを態度で送り続けること。

 

これが、苦しい時に踏ん張る底力になります。

 

まとめ:核心の5つが揃った。次は「あなた自身」の話。

 

「勉強しなさい!」と言いたくなった時、一呼吸置いて思い出してください。

 

その言葉は、子どもの「自律性」を削っていないだろうか? と。

 

代わりに、ハンドルを本人に渡し、問いかけてみてください。

 

「さて、今日はどういう作戦(選択)でいく?」

 

自分で選んだ道なら、子どもは自分の足で歩き始めます。

 


 

さて、これで【核心編】の5つの理論が出揃いました。

 

舞台、エンジン、庭師、土壌、そして燃料。

添育を実践するための強力な武器は手に入りました。

 

しかし、ここで一つ、大きな問題が残っています。

 

「理論はわかった。でも、いざ現場に立つと、どうしても『支配』したくなってしまう自分(指導者)がいる…」

 

そう、最大の敵は、子どもの中ではなく、私たち自身の心の中にいるのです。

 

次回からは【哲学編】がスタートします。

 

テーマは、指導者である「あなた自身のOSのアップデート」です。

 

Vol.6は、「なぜ、私たちはつい口出ししてしまうのか?」

 

その根本原因を解き明かし、他人と自分の課題を切り分けるための最強の哲学、

「アドラー心理学」について解説します。

 

「嫌われる勇気」を持つことで、添育はもっと自由になります。

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