添育を支える25の理論を解説する連載、【核心編】もいよいよ今回が最終回です。
これまで私たちは、添育の土台となる4つの理論を学んできました。
- 舞台:『学び合い』(相互作用する環境)
- エンジン:自己調整学習(自律の仕組み)
- 庭師:サーバント・リーダーシップ(伴走者の在り方)
- 土壌:心理的安全性(恐怖のない場)




これだけの環境があれば、子どもたちの「自律のエンジン」は完成間近です。
しかし、最後の最後に、私たち大人がよくやってしまう「ある間違い」が、すべてを台無しにしてしまうことがあります。
それは、「間違った燃料(アメとムチ)」を注入してしまうことです。
「テストで100点取ったらゲーム買ってあげる(アメ)」
「宿題やらないとオヤツ抜きだよ(ムチ)」
これらは一見、効果があるように見えます。
子どもは動きますから。
でも、それはハイオクガソリンではありません。
エンジンを徐々に錆びつかせ、最終的には動かなくしてしまう「劇薬」かもしれないのです。
今回は、核心編のラストを飾る理論。
人が内側から燃え続けるメカニズムを解明した、「自己決定理論(SDT)」についてお話しします。
「ご褒美」の罠(アンダーマイニング効果)
心理学者のデシとライアンが提唱した「自己決定理論」は、やる気(動機づけ)研究の金字塔です。
この理論が教えてくれる最も衝撃的な事実は、
「もともと『好きでやっていたこと(内発的動機)』に対してご褒美(外発的動機)を与えると、
やる気が下がる」という現象です。
これを「アンダーマイニング効果」と呼びます。
例えば、絵を描くのが純粋に好きな子に、「上手に描けたらシールをあげる」と言い続けると
どうなるでしょうか?
その子は次第に「シールをもらうために」描くようになります。
そして、シールがもらえなくなった途端、あんなに好きだった絵を描かなくなってしまうのです。
なぜか?
「自分の意志で描いていた(自律)」はずが、「シールに操られて描かされている(他律)」に
変わってしまったからです。
添育が「支配(コントロール)」を嫌う最大の理由がここにあります。
良かれと思った「ご褒美」という支配は、子どもの中にある「内なる炎」を消してしまうのです。
心の栄養素「3つの欲求」
では、どうすれば「内なる炎」は燃え続けるのでしょうか?
自己決定理論では、人は生まれつき以下の「3つの基本的心理欲求」を持っており、
これらが満たされた時、自然とやる気が湧いてくると説明します。
① 自律性の欲求 (Autonomy)
「誰かにやらされているのではなく、自分で選んだ」と感じたい欲求。
これが最も重要です。
自己決定の感覚こそが、「納得感」と「責任感」の源です。
② 有能感の欲求 (Competence)
「自分には能力がある、できそうだ」と感じたい欲求。
いきなり高い壁に挑ませて挫折させるのではなく、「あ、できた!」という感覚が必要です。
③ 関係性の欲求 (Relatedness)
「周囲と繋がっている、大切にされている」と感じたい欲求。
孤独な戦いではなく、安心できる仲間や見ていてくれる伴走者がいることがエネルギーになります。
添育スキルで「燃料」を注ぐ
私たち伴走者(庭師)の役割は、アメやムチで釣ることではありません。
この「3つの欲求」が満たされるように環境をデザインすることです。
① 「自律性」を満たす ⇒ 「選択肢」を手渡す
「これをやりなさい」と一つだけ命令するのではなく「選ばせる」のです。
「漢字と計算、どっちからやる?」
「どのペンを使って書く?」
やることは同じでも、些細なことでも、「自分で決めた」という事実があれば、
脳はそれを「自分の行動」として認識し、自律性のタンクが満たされます。
② 「有能感」を満たす ⇒ 「プロセス」を認める
すぐに答えを教える(有能感を奪う)のでもなく、放置する(無力感を与える)のでもなく、
「ギリギリ自分の力で解けるヒント(足場かけ)」を出します。
そして、結果が出た時だけでなく、
「その考え方、いいね!」「あそこの工夫が良かったから解けたんだね」と、
プロセスをフィードバックします。
③ 「関係性」を満たす ⇒ 「I see you(見ているよ)」
「100点取ったから偉い」というのは条件付きの愛です。
そうではなく、悩んでいる時も、失敗した時も、
「あなたのことを見ているよ、味方だよ」というメッセージを態度で送り続けること。
これが、苦しい時に踏ん張る底力になります。
まとめ:核心の5つが揃った。次は「あなた自身」の話。
「勉強しなさい!」と言いたくなった時、一呼吸置いて思い出してください。
その言葉は、子どもの「自律性」を削っていないだろうか? と。
代わりに、ハンドルを本人に渡し、問いかけてみてください。
「さて、今日はどういう作戦(選択)でいく?」
自分で選んだ道なら、子どもは自分の足で歩き始めます。
さて、これで【核心編】の5つの理論が出揃いました。
舞台、エンジン、庭師、土壌、そして燃料。
添育を実践するための強力な武器は手に入りました。
しかし、ここで一つ、大きな問題が残っています。
「理論はわかった。でも、いざ現場に立つと、どうしても『支配』したくなってしまう自分(指導者)がいる…」
そう、最大の敵は、子どもの中ではなく、私たち自身の心の中にいるのです。
次回からは【哲学編】がスタートします。
テーマは、指導者である「あなた自身のOSのアップデート」です。
Vol.6は、「なぜ、私たちはつい口出ししてしまうのか?」
その根本原因を解き明かし、他人と自分の課題を切り分けるための最強の哲学、
「アドラー心理学」について解説します。
「嫌われる勇気」を持つことで、添育はもっと自由になります。


コメント