【添育理論Vol.4・核心編4】「ぬるま湯」ではない。挑戦を生む最強の土壌『心理的安全性』

添育(そういく/Soiku)

 

前回まで、子どもたちが自律するための「仕組み(『学び合い』×自己調整学習)」と、

それを支える私たちの「在り方(サーバント・リーダーシップ)」についてお話ししました。

【添育理論Vol.1・核心編1】支配から信頼へ。教育のOSを書き換える『学び合い』
私が提唱する「添育(そういく)」は、指示や命令による「支配」を手放し、環境を整え、相手の自律的な成長を信じて「待つ」アプローチです。私はこれまで、教育学、心理学、脳科学、組織論などから、500近い理論を学び、それらを「人が自ら育つことに寄り...
【添育理論Vol.2・核心編2】自律のエンジンに灯を点ける。学習科学の決定版「自己調整学習」
前回は、教育のOSを『学び合い』に変え、子どもたち集団の力を信じて任せることの重要性をお話ししました。「よし、環境は整えた。みんなに任せたぞ!」意気揚々とスタートしたものの、現場ではすぐに次なる「壁」にぶつかります。 任せたのに、全然動き出...
【添育理論Vol.3・核心編3】リーダーは「上」ではなく「下」に立つ。支配を捨てる覚悟」サーバント・リーダーシップ」
前回まで、子どもたちが自律するための「環境(『学び合い』)」と「仕組み(自己調整学習)」についてお話ししてきました。「よし、環境は整えた。子どもたちのエンジンも信じよう!」頭ではそう理解していても、いざ現場に立つと、私たち大人の中にある「古...

 

これだけの環境があれば、子どもたちは自然と育っていくはずです。

 

しかし、もしあなたが「良かれと思って」やっている行動が、

見えないところで「土壌汚染」を引き起こしているとしたら?

 

「失敗したら怒られる」

「変なことを言ったら馬鹿にされる」

「わからないって言ったら呆れられる」

 

そんな「恐怖」という毒が土壌に含まれていたら、子どもたちの自律の根っこは、

決して伸びていきません。

 

添育において、この土壌を浄化し、豊かに耕すために重要な理論。

 

それは、Googleの研究で一躍有名になった『心理的安全性(Psychological Safety)』です。

  

「みんな仲良し」という誤解

 

「心理的安全性」と聞くと、多くの人がこう勘違いします。

 

「ああ、みんなが仲良く、喧嘩もなく、居心地がいいクラス(家庭)のことね」

 

…残念ながら、それは違います。

 

それはただの「ぬるま湯(Comfort Zone)」です。

 

本来の心理的安全性とは、ハーバード大のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、

「チームの中で、対人関係のリスクをとっても安全だという確信がある状態」を指します。

 

「対人関係のリスクをとる」とは、「こんなことを言ったら嫌われるかも?」という不安を

乗り越えて行動することです。

 

具体的には、以下の「4つの不安」を感じずに済む状態です。

 

  1. 無知だと思われる不安(「こんなことも知らないの?」と言われないか)
  2. 無能だと思われる不安(「失敗した、できないやつだ」と思われないか)
  3. 邪魔だと思われる不安(「今話しかけたら迷惑かな」と遠慮しないか)
  4. ネガティブだと思われる不安(「反対意見を言ったら嫌われないか」)

 

つまり、「わからない」「失敗した」「助けて」「それは違うと思う」と、

自分の弱さや本音をさらけ出しても「誰も私を馬鹿にしないし、拒絶しない」と信じられる状態。

 

それが真の心理的安全性です。

 

脳は「恐怖」を感じると停止する

 

なぜ、添育では「支配(叱責や威圧によるコントロール)」を徹底的に排除するのか。

 

それは、単なる精神論ではなく脳科学的な理由があります。

 

私たちの脳は、上司や親から怒鳴られたり、馬鹿にされたりして「恐怖」を感じると、

扁桃体(へんとうたい)という部分が「緊急事態だ!」とアラートを鳴らします。

 

すると、脳は生き残るためのモード(闘うか逃げるか)に切り替わり、

論理的な思考や学習を司る前頭前野の機能がシャットダウンしてしまうのです。

 

つまり、恐怖による支配下では、子どもは「物理的に深く学べない状態」になります。

 

「怒られないようにする(正解を探す・顔色を伺う)」ことには長けますが、

「自分で深く考える(自律する)」機能は停止します。

 

だからこそ、私たちは土壌から「恐怖のトゲ」を抜かなければならないのです。

 

目指すは「学習ゾーン」

 

では、どうすればいいのでしょうか?

 

ただ優しくして、基準を下げればいいのではありません。

それでは「ぬるま湯」です。

 

添育が目指すのは、高い基準と高い安全性を両立させた「学習ゾーン(Learning Zone)」です。

 

 

  • 低い基準 × 高い安全性 = 「ぬるま湯ゾーン」(楽だけど成長しない)
  • 高い基準 × 低い安全性 = 「不安ゾーン」(今の学校や職場の多くはこれ。疲弊する)
  • 高い基準 × 高い安全性 = 「学習ゾーン」(失敗を恐れずに高い目標へ挑戦できる!)

 

添育は、子どもたちに「全員達成」や「自律」という高い目標(基準)を求めます。

 

だからこそ、セットで「高い安全性」を提供し、彼らが学習ゾーンへと向かえるようにする必要があるのです。

 

伴走者ができること:「ナイス失敗!」

 

この土壌を作るために、私たち庭師(サーバント・リーダー)ができる具体的なアクションがあります。

 

① 自分の「弱さ」を先に見せる

 

リーダーである私たちが「私は完璧だ」という鎧を着ている限り、子どもたちは鎧を脱げません。

 

「ごめん、先生間違えちゃった」

「ここ、わかんないから教えて?」

 

そうやってトップが弱さを見せることで、「あ、ここでは弱くてもいいんだ」という空気が広がります。

 

② 失敗を「祝福」する

 

誰かが間違えた時、ため息をついたり責めたりしていませんか?

 

添育では、失敗を「学習のための貴重なデータ」と捉えます。

 

子どもがミスをしたら、第一声でこう言いましょう。

 

「ナイス失敗!(Nice try!)」

「おかげで、ここが間違いやすいってわかったね。データ取れたね、ありがとう!」

 

失敗が「罰せられるもの」から「感謝されるもの」に変わった瞬間、

子どもたちは恐れずに手を挙げ、挑戦し始めます。

 

まとめ:本音でぶつかれる場所へ

 

心理的安全性の高いクラスや家庭は、静かで穏やかな場所とは限りません。

 

むしろ、「わかんない!」「助けて!」「いや、私はこう思う!」といった本音が飛び交う、

熱気のある場所です。

 

「いい子(都合のいい子)」を演じさせるのは、もう終わりにしましょう。

 

泥臭く、失敗だらけで、それでも前を向ける。

 

そんなたくましい自律の根っこは、恐怖のない、温かく柔らかい土壌にこそ深く伸びていくのです。

 


 

次回は、核心編の連載最終回!

 

舞台、エンジン、庭師、土壌。

これら全てを動かし続けるための「燃料(エネルギー)」は何なのか?

 

人が自ら動き出したくなる動機のメカニズム『自己決定理論』についてお話しします。

 

「ご褒美で釣る」のがなぜ長期的に逆効果になるのか、その理由が明らかになります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました