「添育(そういく)」を支える25の理論を巡る旅。
【学習メカニズム編】の第2回目(通算Vol.17)は、
「グロースマインドセット(Growth Mindset:しなやかマインドセット)」です。
突然ですが、あなたはお子さん(あるいは部下)を褒めるとき、こんな言葉を使っていませんか?
- 「すごい! 頭がいいね!」
- 「やっぱり才能があるね!」
- 「あなたは天才だよ!」
一見、自信をつけさせる最高のアプローチに見えます。
しかし、最新の心理学では、これらの言葉が子どもの可能性を殺してしまう「呪いの言葉」になり得ることがわかっています。
なぜ「才能」を褒めてはいけないのか?
では、何を褒めれば「折れない心」と「伸び続ける脳」を作れるのか?
今日はその秘密を解き明かしていきましょう。
能力についての「2つの信念」
スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックは、長年の研究により、
人間には能力について2つの思い込み(マインドセット)があることを発見しました。
① 硬直マインドセット(Fixed Mindset)
- 信念: 「知能や才能は、生まれつき決まっていて変わらない(Fixed)」。
- 思考パターン:
- 「努力するのは、才能がない証拠だ」
- 「失敗したら、バカだと思われる」
- 「評価されることが全て」
- 行動: 失敗を恐れて新しい挑戦を避ける(ZPDに入りたがらない)。壁にぶつかるとすぐに諦める。
② しなやかマインドセット(Growth Mindset)
- 信念: 「知能や才能は、努力や経験によって伸ばすことができる(Growth)」。
- 思考パターン:
- 「努力こそが、脳を賢くするプロセスだ」
- 「失敗は、学びの一部だ」
- 「成長することが全て」
- 行動: 難しい課題(ZPD)を歓迎する。失敗しても粘り強く続ける。
驚くべきことに、このマインドセットの違いだけで、成績の伸び率や、人生の困難を乗り越える力(レジリエンス)に決定的な差が生まれるのです。
なぜ「頭がいいね」は危険なのか?
冒頭の「才能褒め」の話に戻りましょう。
「頭がいいね(あなたは才能がある)」と褒められた子どもは、一時的には喜びます。
しかし、彼らの脳内では、無意識に硬直マインドセットが強化されてしまいます。
- 褒められた子の解釈:
「お母さんは、僕の『頭の良さ(才能)』を評価しているんだ。
ということは、失敗して『頭が悪い』と思われることだけは避けなきゃ!」
彼らは「賢い自分」というレッテルを守るために、失敗のリスクがある難しい問題を避け、
簡単に解ける問題ばかり選ぶようになります。
そして、いざ壁にぶつかった時、「解けない=才能がない」という結論に至り、
心がポキっと折れてしまうのです。
これが、「才能の賞賛が生むガラスの檻」です。
「プロセス」を褒めれば、脳は育つ
では、どうすればグロースマインドセットを育めるのでしょうか?
答えはシンプルです。
「才能(結果)」ではなく、「プロセス(過程・戦略・努力)」を褒めるのです。
- × 硬直マインドセットを育てる褒め方:
- 「100点取ったの? 天才!」
- 「こんな難しい曲が弾けるなんて、音楽の才能があるわ!」
- 〇 グロースマインドセットを育てる褒め方:
- 「毎日コツコツ計算ドリルを続けたから、100点取れたね!」(努力)
- 「難しいフレーズを、指使いを変えて工夫してたね。その作戦が良かったね!」(戦略)
「才能」はコントロールできませんが、「努力」や「戦略」は自分でコントロールできます。
自分でコントロールできる部分を評価されると、子どもは「次もこうすればうまくいく」「ダメならやり方を変えればいい」と、主体的に課題に向き合えるようになるのです。
魔法の言葉「まだ(YET)」
グロースマインドセットを象徴する、魔法のような単語があります。
それが「YET(まだ)」です。
子どもが「できない!」「無理!」と嘆いているとき、こう付け加えてあげてください。
「できない、じゃないよ。「まだ」できていないだけだよ。(Not yet.)」
- 「この問題は解けない」 → 「まだ解けない(これから解けるようになる)」
- 「僕は下手くそだ」 → 「まだ練習中だ(これから上手くなる)」
このたった2文字が、「現在の限界」を「未来への通過点」に変えます。
脳は死ぬまで変化し続ける(可塑性がある)ことが科学的に証明されています。
「まだ」という言葉は、その脳の可能性を信じるスイッチなのです。
失敗は「データの収集」にすぎない
グロースマインドセットを持つ人にとって、「失敗」の定義は全く異なります。
- Fixedの人: 失敗 = 自分の能力の欠如(恥ずかしいこと)。
- Growthの人: 失敗 = うまくいかない方法の発見(データ収集)。
エジソンは電球を発明するまでに1万回失敗したと言われますが、
彼はそれを「失敗」とは呼ばず、「うまくいかない方法を1万通り発見した」と言いました。
これこそが究極のグロースマインドセットです。
子どもが失敗した時、親が「あらあら、失敗しちゃったわね(残念そうに)」と言うか、
「お! うまくいかない方法が見つかったね! 次はどうする?(ワクワクして)」と言うか。
この親の態度こそが、子どものマインドセットを作ります。
大人こそ、変われる
最後に。
この話を聞いて、「あちゃー、私自身がガチガチの硬直マインドセットだわ…」と思った方はいませんか?
安心してください。マインドセット自体も、後天的に書き換えることができます。
それこそがグロースマインドセットの本質だからです。
「私には無理」と思った瞬間、「…と、今は思っているだけ(YET)」と言い換える。
「もう歳だから」と思った瞬間、「脳は使えば使うほど回路がつながるんだった」と思い出す。
大人が楽しそうに挑戦し、失敗し、そこから学ぶ姿を見せること(モデリング)。
それこそが、子どもへの最強の添育になります。
まとめ:才能は「結果」であって「原因」ではない
「あの子には才能があったから成功した」のではありません。
「あの子は『自分は伸びる』と信じて努力し続けたから、結果として才能と呼ばれるものが開花した」のです。
ZPD(Vol.16)という「成長の舞台」に立つ勇気をくれるのが、「グロースマインドセット」という「心のエンジン」です。
このエンジンさえ積んでいれば、どんな高い壁も、時間をかけて楽しみながら登っていくことができるでしょう。
さて、心のエンジンがかかったら、次は実際にどうやって学んでいくか、その「サイクル」を回す番です。
次回、Vol.18は「経験学習モデル(コルブ)」。
「ただ経験するだけ」では人は成長しません。
経験を「学び」に変え、次の行動へとつなげていくための「4つのステップ」について解説します。
一流のビジネスマンやアスリートが無意識に回している、最強の学習サイクルです。
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