ここまで第7回から第10回にかけて、添育(そういく)の【マインドセット】と、
【整える】【観る】【待つ】という3つの基本スキルを学んできました。




これらは、目の前の一人と向き合うための強力な武器です。
しかし、学校の先生であれ、企業のマネージャーであれ、私たちが普段向き合っているのは
「集団」です。
「30人のクラス全員を、私一人で添育するなんて無理だ…」
そうため息をつきたくなる気持ち、痛いほど分かります。
ただ、安心してください。
添育の最終ゴールは、リーダーが疲弊することではありません。
目指すのは、メンバー同士が互いに添い合い、高め合う「相互添育の生態系」を作ること。
今回は、リーダーが「教える人」から降りて「太陽」となり、組織が勝手に育ち始めるための
メカニズムを解き明かします。
「機械」のような組織から、「生態系」のような組織へ
従来の組織運営は、リーダーを頂点としたピラミッド型、いわば「機械」のモデルでした。
上からの指示が歯車(メンバー)に伝わり、正確に動くことが求められます。
しかし、このモデルでは、リーダーの能力が組織の限界となり、指示がなければ動けない
「依存」を生み出してしまいます。
添育が目指すのは、森やサンゴ礁のような「生態系(エコシステム)」です。
そこでは、多様な生物(メンバー)が共存し、互いに影響を与え合いながら、
環境の変化にしなやかに適応していきます。
誰かが困っていれば隣の人が自然に手を差し伸べ、知恵を共有する。
この自浄作用と相互扶助のネットワークこそが「相互添育」の正体です。
理論的支柱としての『学び合い』
この「生態系」を教室で実現するための強力なメソッドが、私が実践してきた『学び合い』です。
『学び合い』では、「クラス全員ができるようになること」を目標に掲げます。
すると何が起きるか。
「できる子」は「できない子」に教えることで理解を深め、
「できない子」は安心して助けを求めることができるようになります。
ここには、「教える側/教わる側」という固定された上下関係はありません。
その時々の状況に応じて、誰もが添育者(教え手)になり、学習者(学び手)になる。
この流動的な関係性こそが、組織のレジリエンス(回復力)を高めるのです。
相互添育を生むために、リーダーがなすべき3つのこと
では、どうすればそんな夢のような生態系を作れるのでしょうか。
リーダーの仕事は、直接植物を育てることではなく、森全体の環境を整える
「庭師」のような役割に変わります。
① 旗を立てる(ビジョンの共有)
生態系が同じ方向を向くためには、強力な「旗印」が必要です。
『学び合い』でいう「課題の提示」がこれに当たります。
「この山を全員で登り切るんだ」という、誰もが共感できる明確な目的を示すこと。
これが第8回「整える」の集団版です。
② 土を耕す(心理的安全性の確保)
相互添育の前提は「信頼」です。
「分からないと言っても馬鹿にされない」「失敗しても責められない」という
心理的安全性という土壌があって初めて、人は隣の人に心を許し、助け合うことができます。
③ 太陽になる(弱さの開示と信頼)
ここが最も重要です。
リーダーは「完璧な正解を知っている人」である必要はありません。
むしろ「私一人では無理だ。みんなの力が必要だ」と、自らの弱さを開示できる人こそが、
メンバーの自律性を引き出します。
あとは、第9回「観る」、第10回「待つ」を信じて実行するのみ。
介入したい衝動をこらえ、集団の相互作用を温かく見守る「太陽」のような存在に徹するのです。
リーダーが「添育される側」になるとき
相互添育が機能し始めた組織では、素晴らしい逆転現象が起こります。
それは、リーダー自身もまた、メンバーに「添育される」存在になるということです。
私が教員時代、『学び合い』のクラスでは、子どもたちが私の体調を気遣ってくれたり、
「先生、ここは私たちがやっておくよ」と先回りして動いてくれたりすることが何度もありました。
リーダーが完璧の鎧を脱ぎ、一人の人間としてメンバーと向き合ったとき、
そこには上下関係を超えた、人と人との温かい「横の関係」が生まれます。
これこそが、添育が目指す究極の景色なのかもしれません。
結びに:立場を超え、誰もが「伴走者」になれる世界へ
権限を手放し、コントロールを手放すことは、リーダーにとって勇気がいる決断です。
しかし、その先に待っているのは、指示がなくても自律的に課題を解決し、互いを高め合う、
たくましくしなやかなチームの姿です。
この「相互添育」の連鎖は、学校の教室だけに留まるものではありません。
- ビジネスの現場で、部下の内発的動機を信じて伴走するマネージャー
- コーチングや対人支援で、クライアントの可能性を「観る」プロフェッショナル
- 地域や家庭で、評価ではなく信頼をベースに次世代を育むリーダー
他者の成長に関わるすべての「伴走者」がこのOSを共有したとき、
社会全体がより温かく、自律的な生態系へとアップデートされていくはずです。
さて、連載もいよいよフィナーレです。
教員として現場の最前線に立ち続けながら、なぜ私はこの「添育」という旗を掲げ、
社会へと広げていく決意をしたのか。
最終回、第12回:「添育」の種をまき、すべての伴走者と共に歩む
学校教育と社会を「添育」で繋ぎ、誰もが誰かの伴走者になれる未来へ。
私の「ふたばブログ」としての、そして一人の教育者・添育者としての想いを最後にお届けします。




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