【第11回】『相互添育』 リーダーが楽になり、チームが勝手に育ち始める「生態系」の作り方

添育(そういく/Soiku)

 

ここまで第7回から第10回にかけて、添育(そういく)の【マインドセット】と、

【整える】【観る】【待つ】という3つの基本スキルを学んできました。

【第7回】『マインドセット』支配のトゲを抜き、伴走者としての「OS」を立ち上げる。
教員として、あるいは親として、私たちは常に「導かなければならない」という静かなプレッシャーの中で生きています。目の前の子どもが立ち止まっていれば背中を押し、道に迷いそうになれば先回りして正解を教える。それが「教育者」の責任であり、愛情だと信...
【第8回】『スキル①:整える』 指示を出さずに、子どもが勝手に動き出す「環境デザイン」の秘密
「早く準備しなさい」「いつまでゲームしてるの」「もっと自分から勉強してほしい」家庭でも学校でも、私たちの口からつい出てしまう、こうした「指示・命令」の言葉。しかし、第7回でお話ししたように、私たちはもう「支配のトゲ」を抜き、「伴走者」として...
【第9回】『スキル②:観る』 評価の色眼鏡を外し、成長の「兆し」を捉える観察術
環境が整い、子どもが自ら一歩を踏み出した。その時、私たち大人は何をしているでしょうか?「ちゃんとできているかな?」「間違っていないかな?」と、腕組みをして監視しているとしたら、それはまだ「教育(管理)」の視点です。添育(そういく)の二つ目の...
【第10回】『スキル③:待つ』 信じて沈黙する「アクティブ・ペイシェンス」 自律のスイッチが入る瞬間を守り抜く
環境を【整え】、温かい眼差しで【観て】いたとしても、相手がこちらの期待通りに動くとは限りません。・教室で話し合いが停滞し、沈黙が流れる。・わが子が靴を履くのに手間取り、出発時間が迫る。・部下が失敗を繰り返し、成果が出ない。そんな時、私たちの...

これらは、目の前の一人と向き合うための強力な武器です。

 

しかし、学校の先生であれ、企業のマネージャーであれ、私たちが普段向き合っているのは

「集団」です。

 

「30人のクラス全員を、私一人で添育するなんて無理だ…」

 

そうため息をつきたくなる気持ち、痛いほど分かります。

 

ただ、安心してください。

 

添育の最終ゴールは、リーダーが疲弊することではありません。

 

目指すのは、メンバー同士が互いに添い合い、高め合う「相互添育の生態系」を作ること。

 

今回は、リーダーが「教える人」から降りて「太陽」となり、組織が勝手に育ち始めるための

メカニズムを解き明かします。

 

「機械」のような組織から、「生態系」のような組織へ

 

従来の組織運営は、リーダーを頂点としたピラミッド型、いわば「機械」のモデルでした。

 

上からの指示が歯車(メンバー)に伝わり、正確に動くことが求められます。

 

しかし、このモデルでは、リーダーの能力が組織の限界となり、指示がなければ動けない

「依存」を生み出してしまいます。

 

添育が目指すのは、森やサンゴ礁のような「生態系(エコシステム)」です。

 

そこでは、多様な生物(メンバー)が共存し、互いに影響を与え合いながら、

環境の変化にしなやかに適応していきます。

 

誰かが困っていれば隣の人が自然に手を差し伸べ、知恵を共有する。

 

この自浄作用と相互扶助のネットワークこそが「相互添育」の正体です。

 

理論的支柱としての『学び合い』

 

この「生態系」を教室で実現するための強力なメソッドが、私が実践してきた『学び合い』です。

 

『学び合い』では、「クラス全員ができるようになること」を目標に掲げます。

 

すると何が起きるか。

 

「できる子」は「できない子」に教えることで理解を深め、

「できない子」は安心して助けを求めることができるようになります。

 

ここには、「教える側/教わる側」という固定された上下関係はありません。

 

その時々の状況に応じて、誰もが添育者(教え手)になり、学習者(学び手)になる。

 

この流動的な関係性こそが、組織のレジリエンス(回復力)を高めるのです。

 

相互添育を生むために、リーダーがなすべき3つのこと

 

では、どうすればそんな夢のような生態系を作れるのでしょうか。

 

リーダーの仕事は、直接植物を育てることではなく、森全体の環境を整える

「庭師」のような役割に変わります。

 

① 旗を立てる(ビジョンの共有)

 

生態系が同じ方向を向くためには、強力な「旗印」が必要です。

『学び合い』でいう「課題の提示」がこれに当たります。

 

「この山を全員で登り切るんだ」という、誰もが共感できる明確な目的を示すこと。

これが第8回「整える」の集団版です。

 

② 土を耕す(心理的安全性の確保)

 

相互添育の前提は「信頼」です。

 

「分からないと言っても馬鹿にされない」「失敗しても責められない」という

心理的安全性という土壌があって初めて、人は隣の人に心を許し、助け合うことができます。

 

③ 太陽になる(弱さの開示と信頼)

 

ここが最も重要です。

 

リーダーは「完璧な正解を知っている人」である必要はありません。

 

むしろ「私一人では無理だ。みんなの力が必要だ」と、自らの弱さを開示できる人こそが、

メンバーの自律性を引き出します。

 

あとは、第9回「観る」、第10回「待つ」を信じて実行するのみ。

 

介入したい衝動をこらえ、集団の相互作用を温かく見守る「太陽」のような存在に徹するのです。

 

リーダーが「添育される側」になるとき

 

相互添育が機能し始めた組織では、素晴らしい逆転現象が起こります。

 

それは、リーダー自身もまた、メンバーに「添育される」存在になるということです。

 

私が教員時代、『学び合い』のクラスでは、子どもたちが私の体調を気遣ってくれたり、

「先生、ここは私たちがやっておくよ」と先回りして動いてくれたりすることが何度もありました。

 

リーダーが完璧の鎧を脱ぎ、一人の人間としてメンバーと向き合ったとき、

そこには上下関係を超えた、人と人との温かい「横の関係」が生まれます。

 

これこそが、添育が目指す究極の景色なのかもしれません。

 

結びに:立場を超え、誰もが「伴走者」になれる世界へ

 

権限を手放し、コントロールを手放すことは、リーダーにとって勇気がいる決断です。

 

しかし、その先に待っているのは、指示がなくても自律的に課題を解決し、互いを高め合う、

たくましくしなやかなチームの姿です。

 

この「相互添育」の連鎖は、学校の教室だけに留まるものではありません。

 

  • ビジネスの現場で、部下の内発的動機を信じて伴走するマネージャー
  • コーチングや対人支援で、クライアントの可能性を「観る」プロフェッショナル
  • 地域や家庭で、評価ではなく信頼をベースに次世代を育むリーダー

 

他者の成長に関わるすべての「伴走者」がこのOSを共有したとき、

社会全体がより温かく、自律的な生態系へとアップデートされていくはずです。

 

さて、連載もいよいよフィナーレです。

 

教員として現場の最前線に立ち続けながら、なぜ私はこの「添育」という旗を掲げ、

社会へと広げていく決意をしたのか。

 

最終回、第12回:「添育」の種をまき、すべての伴走者と共に歩む

 

学校教育と社会を「添育」で繋ぎ、誰もが誰かの伴走者になれる未来へ。

 

私の「ふたばブログ」としての、そして一人の教育者・添育者としての想いを最後にお届けします。

【第12回】「添育」の種をまき、すべての伴走者と共に歩む
全12回の連載、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。「教育」という言葉に感じた小さなトゲの正体を探る旅は、一つの確信にたどり着きました。それは、今ある実践を否定するのではなく、その「OS」を書き換えることで、目の前の景色...

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