【添育理論Vol.22・組織コミュニティ編2】「犯人探し」をやめ、関係性のループを解き明かす。「学習する組織(システム思考)」

添育(そういく/Soiku)

 

「添育(そういく)」を支える25の理論を巡る旅。

 

【組織コミュニティ編(場づくり)】の第2回目(通算Vol.22)は、「学習する組織(Learning Organization)」と、その中核となる「システム思考(Systems Thinking)」です。

 

家庭での子育てや、学校の教室。

人が集まる場所では、毎日のように問題が起きますよね。

 

「子どもが全然片付けない」

「クラスの特定の生徒が反抗的な態度をとる」

「夫婦でいつも同じパターンの喧嘩をしてしまう」

 

私たちは問題が起きると、つい「誰のせいか?(犯人探し)」をしてしまいます。

 

「この子がだらしないからだ」「あの生徒の性格に問題があるからだ」と、原因を「個人の要素」に求めてしまいがちです。

 

しかし、本当に悪いのは「その人」なのでしょうか?

 

今日ご紹介する「システム思考」は、この「犯人探し」という不毛な争いから私たちを解放してくれる、非常に温かく、かつ本質的なアプローチです。

 

「木を見て森を見ず」から抜け出す「システム思考」

 

私たちが普段無意識に行っている考え方を、「直線的因果関係(出来事思考)」と呼びます。

 

「Aが起きたから、Bになった」という、原因と結果を一直線で結ぶ考え方です。

 

例えば、「子どもが勉強しない(原因)」から「親が怒る(結果)」という直線の捉え方です。

 

しかし、現実の人間関係はそんなにシンプルではありません。

 

親が怒ることで、子どもはさらにやる気を失い、より勉強しなくなる。

すると親はさらにヒートアップして怒る……。

 

実際には、原因と結果は一直線ではなく、「ぐるぐると回る円(ループ)」になっています。

 

これが「システム(全体的なつながり)」の視点です。

 

システム思考とは、目の前で起きた「出来事」だけを見る(木を見る)のではなく、

その背景にある「構造や関係性のループ」全体を俯瞰する(森を見る)スキルのことです。

 

モビール(天井から吊るす飾り)を想像してみてください。

一箇所を引っ張ると、全く違う場所が揺れますよね。

 

家族やクラスも、見えない糸で繋がったひとつの巨大なモビールなのです。

 

水面下に隠された「氷山モデル」

 

システム思考を理解する上で、非常に役立つのが「氷山モデル」です。

 

私たちが普段見ている問題は、海面に突き出た氷山の一角(出来事)にすぎません。

その水面下には、巨大な氷の塊が隠れています。

 

  • 第1層:出来事(目に見える問題)

「子どもがかんしゃくを起こした」「生徒が授業を妨害した」

 

  • 第2層:パターン(繰り返される傾向)

「そういえば、いつも夕暮れ時や、親がスマホを見ている時にかんしゃくを起こすな」

 

  • 第3層:構造(システム・ルール・環境)

「親の仕事が忙しく、子どもと向き合う物理的な時間が減っているという構造がある」

「クラスの中で『目立った者勝ち』という見えないルールができている」

 

  • 第4層:メンタルモデル(無意識の思い込み)

「親は『子どもは親の言うことを聞くべきだ』と思い込んでいる」

「子どもは『悪いことをしないと自分を見てもらえない』と思い込んでいる」

 

「添育(So-iku)」において私たちがアプローチすべきは、水面に出ている「出来事」を力ずくで叩き潰すこと(=怒って言うことを聞かせること)ではありません。

 

水面下に潜り、「構造」や「メンタルモデル」を共に変えていくことなのです。

 

ピーター・センゲの『学習する組織』5つの規律

 

では、このシステム思考を使って、家族やクラスをどうやって「より良い状態」へ導いていけばいいのでしょうか。

 

ピーター・センゲは、組織が自ら学び、進化し続けるための「5つの規律」を提唱しました。

 

1.自己実現(Personal Mastery):

メンバー一人ひとりが「自分が本当に何を大切にしたいか」を探求すること。

 

2.メンタルモデルの克服(Mental Models):

「親だからこうすべき」「先生だからこうあるべき」という無意識の固定観念に気づき、それを手放すこと。

 

3.共有ビジョンの構築(Shared Vision):

「私たちの家族(クラス)を、どんなチームにしたいか?」という未来図を、トップダウンではなく全員で描くこと。

 

4.チーム学習(Team Learning):

互いの意見を否定せず、深く対話(ダイアローグ)すること。まさに『学び合い(Manabi-ai)』の精神です。

 

5.システム思考(Systems Thinking):

上記4つを統合し、常に「全体」を見渡す視点を持つこと。

 

この5つが揃った時、組織は誰か一人の強力なリーダー(親や教師)の指示で動くのではなく、

メンバー全員の相互作用によって自律的に問題を解決していく「学習する組織」へと進化します。

 

添育者が持つべき「鳥の目」と「魚の目」

 

私が提唱する「添育」の根底にも、このシステム思考が深く流れています。

 

子どもが問題を起こした時、「お前が悪い!」と指を差すのではなく、子どもと同じ方向を向きながら、一緒に全体図(システム)を眺めるのです。

 

「もしかして、こういう悪循環(ループ)に陥ってないかな?」

「この構造を変えるためには、親である私自身の『メンタルモデル』を変える必要があるかもしれないね」

 

このように、自分自身も「システムの一部」として捉えることが重要です。

 

自分を外側の安全地帯に置いて「子どもをコントロールしよう」とするのではなく、

自分もそのモビールの一部として一緒に揺れながら、心地よいバランスを探っていく。

 

物事を俯瞰して見る「鳥の目」と、目に見えない関係性の流れを読み取る「魚の目」を持つこと。

 

これこそが、家族やクラスという小さな社会を、豊かで温かい「学びの生態系」へと育てていくための秘訣です。

 

まとめ:誰も悪くない。ただ「システム」が絡まっているだけ。

 

いかがだったでしょうか。

 

システム思考を身につけると、他者に対して圧倒的に優しくなれます。

 

「この人が悪いのではなく、今の『関係性の構造』が良くないだけだ。なら、構造を変えればいいんだ」と、冷静に、かつ希望を持って問題に対処できるようになります。

 

「学習する組織」は、完成形のない永遠のプロセスです。

 

完璧な親、完璧な教師、完璧な組織など存在しません。

 

大切なのは、問題が起きた時に「共に学び、共に構造をアップデートしていける関係性」を築いておくことです。

 


 

さて、次回Vol.23は、この【組織・コミュニティ編】の集大成となる「ティール組織」です。

 

今回紹介した「学習する組織」がさらに進化し、社長も上司も(あるいは絶対的な親や教師も)いないのに、組織全体がまるでひとつの「生命体」のように自律的に躍動する。

 

そんな次世代の組織モデルについて解説します。

 

管理や支配を手放した先にある、驚くべき人間の可能性に迫りましょう。

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